第21章 雨後
「……綾瀬さんのことも、そのつもりで呪術師にしたんですか?」
そんなわけないだろうって顔で伊地知は僕に尋ねる。
伊地知の考えているとおり、僕は皆実を優秀な呪術師にしたかったわけじゃない。
結果として、優秀な呪術師になってくれればそれでよかった。
「皆実を呪術師にしたのは……完全に僕の私情だよ」
僕は素直にそう答えた。
皆実は、呪いにまみれた世界が生んだ【憂い】の象徴だった。
その皆実を、この世界で笑顔にできたら、きっとこの世界は少しはマシな世界なんだろうって思えるから。
アイツが望んだ世界もきっと、皆実が笑えるような世界だったんだろうって。
呪力を漏出しない呪術師のそばであれば、少しは笑えるようになるんじゃないかって。
皆実を呪術師にした理由なんて、たったそれだけのこと。
皆実は僕の前で笑ってくれればそれでよかった。
術式なんて使わずに、呪いは誰かに祓わせればそれでよかったんだ。
(皆実に……その術式を、使ってほしくなかったんだ)