第21章 雨後
そんな僕の隣に、いまだに怯えた様子の伊地知が立っている。
硝子のおかげで、少しだけ心が落ち着いてきて。
わずかな、ほんのわずかな、伊地知への申し訳なさから、僕は静かに口を開いた。
「僕はさ、性格悪いんだよね」
あえて、伊地知を落ち着かせるために、思ってもないことを口にしてみた。
「知ってます」
「伊地知、後でマジビンタ」
伊地知に少しは詫びの言葉でも入れてやろうかと思ったけれど、その気持ちはすぐに消えていった。マジで後でビンタしよう。
でも話始めたからには、今更もう止められないから。
僕は僕の夢想を、このまま話し続けることにした。
「教師なんて柄じゃない。そんな僕がなんで高専で教鞭をとっているか……聞いて」
せっかく話すんだから、ちゃんと聞いてほしくて。
僕の話に興味を示すよう、伊地知に圧をかけた。
「なんでですか……?」
カタコトな疑問形。それでも構わない。
これはほとんど独り言のようなものだから。
「夢があるんだ」
「夢……ですか」
「そっ、悠仁と皆実のことでも分かる通り、上層部は呪術界の魔窟、保身馬鹿、世襲馬鹿、高慢馬鹿、ただの馬鹿、腐ったミカンのバーゲンセール」
傑は、非呪術師のことを『猿』って呼んでたけどさ、アイツらは呪術師でも『猿』以下だよ。
そんな呪術界に意味なんてないから。
「こんなクソ呪術界をリセットする。上の連中を皆殺しにするのは簡単だ。でもそれじゃ首がすげ替わるだけで変革は起きない。そんなやり方じゃ誰も付いて来ないしね」
傑と道を違えたあの日、僕は決めたんだ。
「だから僕は教育を選んだんだ。強く聡い仲間を育てることを」
そうしたら、オマエみたいに1人悩んで苦しむ人間が少しは減るだろうって。
「皆優秀だよ。特に三年・秤、二年・乙骨。彼らは僕に並ぶ術師になる」
悠仁もその一人だった。
強くなって、この呪術界を背負う人間の1人になるはずだった。
相当の価値を馬鹿どもは塵のように扱って、捨てた。
手を強く握りしめたら、爪が食い込んでキリッと痛みが走る。
でもそんな痛みなど気にせずに、握りしめ続けていたら、伊地知が心配そうに僕に声をかけてきた。