第21章 雨後
硝子がわざわざ尋ねてくる。
硝子に限って、その表情に僕を心配するような気遣いの色は浮かべてくれないけれど。
「……ああ」
悠仁を解剖して、皆実を解剖しないわけにはいかない。
皆実の死も無駄にしたくないと答えるならば、悠仁と同じように扱わなければ話の辻褄が合わなくなる。
僕の本音なんて、言い出したらキリがない。
これ以上の私情は、それこそ私欲以外の何でもない。
僕にはまだ、守らなければならない生徒たちがいる。
なんて、さ。
大切なものをことごとく守れなかった僕が言っても、もう説得力なんてないんだけどさ。
「役立てろよ」
「役立てるよ、誰に言ってんの」
僕の心からの願いに、硝子はやはりそっけなく返す。
でもその言葉以上に信頼できる返事を僕は知らない。
その言葉が聞けたから、解剖の準備を始める硝子を静かに見守ることにした。