第21章 雨後
「珍しく感情的だな」
硝子が面白いものを見つけたような顔をして僕を見ていた。
本来ならその顔も不快感が勝って僕の苛立ちを加速させるはずなんだけど。
過ごした時間の長さは、人を甘くする。
硝子の声で、僕の全身を覆っていた棘が抜かれると、硝子が長い髪をくるくる回しながら言葉を続けた。
「随分とお気に入りだったんだな、彼」
悠仁を包む布を見て、一言そう告げる。
別に悠仁に限った話ではない。ここにいるのが恵でも野薔薇でも、僕の怒りは変わらない。
「僕はいつだって生徒思いのナイスガイさ」
真剣にそう答えたけれど、硝子は僕の返事を無視してもう一つの抜け殻を包む布に視線を向けた。
「この子に関しては前も余裕をなくしてたし、やっぱり手出してるだろ」
「言い方が悪いよ、硝子」
「否定しなよ」
硝子が呆れたような顔で僕を見てる。
手は……出したよ。
でも出したからには、僕の心も僕の身体も、僕の全部を皆実に捧げるつもりだったんだ。
でも今さら、そんな言い訳をしても、意味はない。
覇気のない僕に、硝子が肩を竦めた。
「……まあいいけどさ。あまり伊地知をイジメるな。私達と上の間で苦労してるんだ」
「男の苦労なんて興味ねーっつーの」
僕が顔を歪めて告げると、硝子は「そうか」ってまたそっけなく返す。
それも当然で、硝子の興味はすでにソチラに向いていたから。
「で、コレが――宿儺の器か」
悠仁を包んでいた布を豪快に剥いで、硝子はその姿を見下ろす。
「好きに解剖していいよね」
確認のために、硝子は僕の方を向いて尋ねた。
悠仁のことを思うなら、その身体を焼いて埋葬するのが正しい行いなんだろう。
けれど、特級呪物を取り込める身体――それを調べることが今後の呪術戦に意味をもたらすのならば、僕はそれを選ぶ。
悠仁の死をただ焼き払うだけで、終わらせたくない。
この死を無駄にしないために、もしも解剖をするのならば硝子にしろと指定したのは僕だった。
「……てゆーか、いいの? その子も解剖して」