第21章 雨後
どうしてこんなことに、なんて。
そんな下手な疑問符など掲げる気は毛頭ない。
理由なんて、考えなくともすぐ分かる。
分からないだろうなんて思ってるのは、脳味噌を腐らせた馬鹿どもだけだ。
言い表しようもない感情が胸の中でひしめきあう。
この感情をどうすることもできないから。
僕は目の前で萎縮している伊地知にその感情をぶつけた。
「わざとでしょ」
僕が静かに呟くと、伊地知の体が震えた。
「と、仰いますと」
僕が言いたいことなんて、察しのいい伊地知ならすぐに分かるはずなのに。
僕の感情が恐いのか、伊地知はすっとぼけてる。
そんなに震えている時点で、今回の件には予め問題しかなかったと白状しているようなものなのに。
「特級相手、しかも生死不明の5人救助に、一年派遣はあり得ない」
伊地知の言動さえも不快で。
僕はわざと僕の苛立ちを詳細に説明してみせた。
「僕が無理を通して皆実と悠仁の死刑に実質無期限の猶予を与えた。面白くない上が僕のいぬ間に特級を利用して体よく2人を始末ってとこだろう」
自分の保身しか考えられない馬鹿が考えそうな浅はかな計画。
それにまんまと引っ掛かった自分にも腹が立って仕方ない。
「他の2人が死んでも僕に嫌がらせできて、一石二鳥とか思ってんじゃない?」
怒り任せに言葉を続けたら、伊地知が申し訳程度の否定を始めた。
「いやしかし、派遣が決まった時点では本当に特級に成るとは……」
思っていなかった?
そんな言葉がこの状況で通用すると思っているのか?
だとしたら、呪術界に未来なんてもうないだろ。
「犯人探しも面倒だ」
もう、いっそのこと。
「上の連中、全員殺してしまおうか?」
綺麗さっぱり全部掃除してしまえば、この感情に整理がつくだろうか。
その答えも、僕はちゃんと分かってる。
そんなことをしても、悠仁は生き返らない。
皆実が僕に笑顔を向けることも、可憐な声で僕の名を呼ぶこともない。
それが分かってるからこそ、苦しくて。
僕が、僕自身を許せなくて。
自暴自棄になりかけた僕を、その声が引き留めた。