第21章 雨後
布で覆われた目の前の遺体に、手を伸ばす。
顔が見えるように、その布を剥がしてみれば、見紛うはずのない、皆実の顔が現れた。
魂が抜け落ちたとは思えないほど綺麗な顔がそこに横たわっている。
ともすれば、「おはようございます」なんて言って起き上がりそうなほど綺麗な顔をして、皆実の抜け殻が眠ってる。
その抜け殻の傍に、遺品として置かれた小刀は僕が皆実に与えたもの。
皆実を守るために与えた小刀――それが皆実の命を奪うことになったなんて。
(……皮肉にも程があるだろ)
唇を噛んで、その事実をなんとか咀嚼しようと試みるけど。
咀嚼しきれなかった想いが怒りとなって僕の手に力を加えた。
力任せに握った布に、大きな皺が寄る。
その布を少し浮かせて中を覗き込めば、皆実の真っ白な肢体が映り込んだ。
皆実の身体の傷はたった1つ。
その小刀でつけた胸の致命傷のみ。
死んだ姿さえ、皆実は美しいままだった。
綺麗すぎるほど綺麗な、その抜け殻を見ているのが苦しくて。
僕は視線を隣に移す。
(皆実とは逆に……悠仁はボロボロか)
隣の遺体の布を剥がせば、悠仁の抜け殻が現れる。
胸の傷以外、すべてが美しいまま保たれている皆実とは正反対に、悠仁の身体はボロボロだった。
顔も傷だらけ、胸は乱暴に裂かれて肉が丸見えになっている。
(……酷い有様だね)
2人にかける言葉もない。
かけたところで、返事がないと分かっているなら、余計に辛いだけだ。
(……2人から、目を離すべきではなかった)
後悔なんて、大嫌いだけれど。
この後悔を抱かずにはいられない。
2人の抜け殻に再び布をかけたら、自然と僕の足は現実から遠ざかるみたいに後退して。
背後にあったストレッチャーにぶつかった。
そのストレッチャーを避けるのも面倒で、僕はその上に腰掛ける。