第21章 雨後
※五条視点
遺体安置所の隣室――遺体解剖室に、僕は呆然と立っていた。
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さっさと出張を終えた僕は、皆実が高専から帰ってくるのを待っていた。
皆実と食べるために買ってきたご当地スイーツを机に並べながら、可憐な声が「ただいま」と家の扉を開けるのを楽しみにしていた。
その扉が開いたら、まず一言目は何にしようか。
いきなりキスしてがっついたら、きっと可愛くむくれてくれるのだろう。
皆実のクッキーのお礼に「本当に美味しいスイーツを買ってきたよ」なんて言ったら、きっと「もう作りません」って愛らしく不貞腐れるのだろう。
僕の前ではコロコロ変わる、皆実のいろんな表情が見たくて。
どんな言葉を選んだら、皆実が可愛くなるだろうって。
今朝のクッキーだって、そりゃあお店の味に比べたら全然だけど。
でも皆実が作ったと思えば全部食べてしまえるくらい、好きだった。
皆実に告げた文句なんて、所詮僕が皆実をからかいたいだけの戯れ。
僕はまた、皆実との新たな戯れを計画して、鼻歌を歌う。
(スイーツ、口移しで食べさせてみようか)
のんきに、愉快に、何も知らずに。
頭の中に、枯れるのを待つだけの咲き誇る花畑を浮かべて。
そうして鳴り響いた、不協和音。
ポケットで鳴り響く、僕のスマホが着信を伝えた。
スマホの画面には【伏黒恵】の文字。
いつもみたいにからかう調子で電話に出てみれば、生気を失ったような声が届いてきて。
『五条、先生……綾瀬と虎杖が――』
僕に、一つの事実を伝えた。