第21章 雨後
瞬間、呪霊の頭が泡立ち、その熱を沸かし始める。
《獄門疆……? 持っているのか! あの忌み物を!》
あまりの興奮に、沸騰した蒸気が周囲の温度を急激に上昇させていく。
「漏瑚、興奮するな。暑くなる」
男は尚も冷静に言葉を紡ぐ。
しかし、この状況も周囲の人間からは五条袈裟を着た男が一人、4人掛けのテーブルを占領しているようにしか見えない。
いまだ注文をしないでいる五条袈裟の男に痺れを切らした、愚かな店員がそのテーブルに近づいた。
「お客様ご注文はお決まりですか?」
その言葉を言い終わる前に身体が燃えて焦げ腐る。
周囲から上がる悲鳴に、五条袈裟の男は表情を歪ませ、興奮状態の呪霊を睨んだ。
「あまり騒ぎを起こさないでほしいな」
《これでいいだろう》
興奮冷めやまない呪霊は、指を2本突き立てて客全員を燃やし始める。
各所で炎上する煙を吸い込んで、男は少しばかりむせてしまった。
「高い店にしなくて良かったよ」
男がむせることなど全く気にも留めず、興奮した声音のまま火山頭が問う。
《夏油。儂は宿儺の指何本分の強さだ?》
「甘く見積もって8.9本分ってとこかな」
その答えに、呪霊は満足げな笑みを浮かべた。
《充分。獄門疆を儂にくれ! 蒐集に加える。その代わり……》
身の程を知らないその呪霊はニヤリと歯を見せて笑い――。
《五条悟は儂が殺す》
――その場にいた、すべての非呪術師を焼き尽くした。