第15章 自分のために⑤
玄関って、靴脱いだらすぐに通り過ぎる場所じゃない?
なんで私はショートブーツすら脱ぐことを許されないんだろう。
「あの、五条先生」
「なに?」
「靴脱ぎたいんですが」
「脱げば?」
(脱げないから言ってるんですけど!)
背中は外に通じる扉。
目の前は五条先生の顔。
両サイドは五条先生の手。
見事に囲まれて、全く身動きがとれない。
「で、僕の話を無視し続けた皆実ちゃん」
話をそらしまくったから、「もうどうでもいいや」ってなっててくれるといいなーって期待してたんだけど。
やっぱりそんなにうまくいかないよね。
「うちの恵くんと何したのかな?」
「伏黒くんはいつから五条先生の息子さんになったんですか」
「皆実知らないのー? こう見えて僕、恵の保護者なんだけど」
これは、本当か、嘘か、どっちだろう。
考えを巡らす私を見て、五条先生が笑った。
「で、恵と何したの?」
「五条先生と仲直りした報告をしました」
「僕の名前出せば僕が黙ると思ってる?」
その口が黙ることがあるなら是非見てみたいくらいだ。
そもそも五条先生が黙るなんて思ってないし。
何より、嘘はついてない。
「どんな報告したら恵があんなに顔真っ赤にするんだよ。僕との情熱的な仲直りを事細かに話してあげたの?」
「話すわけないでしょうが」
「じゃあ、なに」
なんでこんなにしつこいんだろう。
私が目を逸らそうとしたら、顔を固定された。
「言えないことした? でももしそうなら、恵が皆実の呪力にあてられて今頃硝子のとこに運ばれてるだろうし」
五条先生が目隠しを外す。
その眼はなんだか全部見通しそうだから嫌なんだけど。
「白状しなよ。じゃないとキスするけど」
顔を限界ギリギリまで近づけて、五条先生は笑う。
こうすれば、絶対私が白状すると思ってる。
白状しなくても「キスしたかった?」って煽るだけ。
どっちにしたって五条先生の思惑通り。
(ほんと、性悪)
たまには、そんなの覆してやりたいから。
「皆実?」
五条先生の首に手を回して、その唇に私の唇を重ねた。