第15章 自分のために⑤
明日の集合時間と待ち合わせ場所を指定し、今日は解散。
私は五条先生と家に帰ることになったんだけど。
「……ところで、皆実」
2人きりになった瞬間、五条先生が静かに切り出した。
この静けさには、嫌な予感しかない。
絶対に面倒なことになる。この予感はきっと当たる。
「あ、五条先生!」
「僕が今話しかけてるんだけど?」
「帰ったらスマホ貸してださい」
「……なんで」
「私スマホ持ってないので」
「貸して何するか聞いてるんだけど。ほんと、バカだね」
悪意たっぷりの発言をして、五条先生はため息を吐く。
そのヤレヤレ顔がやっぱりムカついた。
「真希先輩と電話したいです。急に宮城に行ったから、真希先輩の稽古サボることになっちゃったし」
私がスマホを借りたい正式な理由を伝えると、五条先生は口を開けて固まった。
「なんですか」
「真希には電話しようと思い立つくらい懐いてるのに、なんで僕には塩対応なんだろうか」
「自分の胸に手を当ててみてください」
「チューしてる時はやたら素直なくせに」
「そういうところですよ」
私は真顔で答えるけど、五条先生は何食わぬ顔。「ま、いいけど」と答えてまた空気を切り替えた。
「で、皆実」
「あ、五条先生!」
「ねえそれわざとだよね?」
「あそこのクレープ食べたいです」
「堂々と奢って宣言するなんて図々しいと思わない?」
別に本当にクレープが食べたいわけじゃなかったけど。
五条先生は甘党だから、甘いものを渡せば黙ると思って提案してみた。
以降も会話が途切れないよう頑張ってみたのだけど――限界が訪れた。