第4章 水
先生がいなくなって私1人になり、保健室は静けさを増した。
さっきまで気づかなかったけれど、つんっと消毒液の匂いがした。
「はぁー、暇だなぁ…。」
私は再びベッドに横になり、そう呟いた。
(てか、私を助けてくれた人って…柚葉?)
柚葉は泳ぐのがとても得意だ。
だから、柚葉が助けてくれたのか…?
「いやいや、でも。手掴まれた時、女子だったらあんなに力強くないし…うーん…。」
(もしかして、助けてくれたのは…)
「白井…くん…?」
「び、びっくりしたぁ…!いきなりオレの名前呼ぶなよな。」
「え!?」
私はびっくりして飛び起きる。
自分しかいないはずの保健室に、突然声が聞こえたからだ。
「よぅ。具合はどうだ?」
白井くんはそう言って、ベッドのそばにあった椅子に腰掛ける。
「大丈夫そう。」
「ところでお前、何で教室の前で泣いてたんだよ。」
「…な、泣いてなんかないし。」
私は声を低くして答える。
今、一番聞かれたくないことを聞かれたからだ。
「…何でお前はさー。そうやって、泣くの我慢するの?」
「あの人と…約束したから。」
「あの人?
あの人って誰だ…?」
「小さい頃に会った、白いほうきに乗った人…。」
「はぁ?!バカか、お前。今の今までバカ真面目にその約束を守ってきたのか?!」
「白井くんにとっては、どうでもいいかもしれないけど…
私、昔から泣き虫だったから、泣いちゃうとまた泣き虫に戻っちゃうから、
私にとっては大事な約束なのっ!」
私はまた声を張り上げてしまった。