第3章 春高予選
ー及川side
我ながら他校に乗り込むなんてらしくないことしたな
隣には自転車を押す歩ちゃん
「歩ちゃんさ〜あの日、トビオちゃんとウチに来てたわけ?」
「…はい」
「じゃあ失恋したって言ってた相手は、トビオちゃんだったわけだ」
「…その節は…でももう大丈夫です」
「ふーん…で、爽やかクンに乗り換えたと…」
「違いますっ」
「分かってる分かってる、歩ちゃんのあの後の雰囲気見てたらね」
「そやったらさっき何で…
「もちろん歩ちゃんを連れ出すためだよ。ああでも言わないと来てくれなかったでしょ?」
「まぁ…」
「さっ、じゃあ歩ちゃんがトビオちゃんのものでも爽やかクンのものでもないって分かったところで、何する?デート」
「何でも。てか決めてるから誘ったんやないんですか?」
「カラオケ?とか」
「…及川さんって本当は、そんな騒がしいの好きやないんちゃいますか?」
え…
そんなこと初めて言われた
「映画、どうです?私ちょうど見たいのあったんですよね」
「え、あ、いいよ」
「時間調べますね」
彼女は押していた自転車を俺に渡してスマホを取り出す
「あー…この時間逃したら次は遅くなるんで…はい、いきましょ!自転車乗ってください」
「え、うん」
俺が自転車に跨ると、彼女は慣れたように後ろに飛び乗る
「急いで行ってください」
何なのこの子
天然男タラシ?
俺のこと意識してるわけないし、いつも誰にでもこんな風なわけ?
だとしたら、トビオちゃんも爽やかクンもこの子の犠牲者じゃん
「歩ちゃん、慣れてるね」
「何がですか?」
「男にだよ」
「そうですか?」
「ほぼ初対面の男といきなり2人乗りっておかしいでしょ」
「ほぼ初対面の女を他校まで迎えに来る方がおかしいです」
「いやまぁそれはそうだけど」
「喋ってんと急いでください」
「辛辣!」
何気に女の子を自転車の後ろに乗せて走るって初めてかも
てかこんなに急いで自転車漕いだの久しぶりなんだけど
映画館に着く
「ハァハァ…じゃあチケット買ってくるからここで待ってて」
「はい」
俺はチケットの発券機で2枚分のチケットを購入する
見たいって言ってたのはこれだったかな?