第2章 世界反転
美穂子の世界 side
午前中の会議が終わって、美穂子は部屋から退出しながら荷物を持ち直して、肩を回した。
(英語の会議って長引くから嫌なのよ…)
ちらりと見れば昼休みも半ば。
出席者の中に二人ほど外人が混じっていたので、会議は必然的に英語になる。
おかげで意思疎通が日本語同士のようにスムーズに行くわけもなく。
とはいえ、忙しい中せっかく集まったのだからきちんとアウトプットを出したいのは全員が同じ意見で…結局、会議時間をオーバーしてしまうのだ。
美穂子はため息をついて、下行きのエスカレーターに乗った。
最近、会社のいたるところに階段代わりに設置されたエスカレーターのおかげで、エレベーターを待つ時間が短縮された。
美穂子ももっぱらエスカレーター派だ。
昼休み中と言うこともあって、エスカレーターを使う人は少ない。
美穂子はぼーっとしながらエスカレーターで下っていくと-…一瞬、くらりと頭がゆれる。
「…っ!」
くらりと身体が傾いた美穂子は、咄嗟にエスカレーターの移動手すりに凭れた。
その瞬間、がくっとエスカレーターが何かに引っかかったかような強い振動を起こして、美穂子は身体をうまく支えられず、手が滑った。
美穂子は、目を見開く。
(えー…落ちる?)
ふわりと、身体が浮いたような気がした。
そして、ぼやけた視覚が―…まるでテレビの電源を落としたときのように、ブチっと暗くなった。