第1章 Allegro 白布
一ヶ月後
スポットライトの下を舞う橘
表情は以前より色っぽくゾクリとする
練習の時とは違う舞台メイク
キラキラと輝くティアラや衣裳
眩しいほど美しい
全ての演目が終わり見慣れたはずの彼女のレヴェランス
これは俺のためじゃない 観客全員のため
誰にも渡したくない
気がつくと走り出していた
思ったより時間がかかってしまった
彼女はまだいるだろうか
彼女は大勢の人に囲まれて沢山の花束を受け取っていた
だめだ ここで怯むな
「おい、橘!!」
「白布…」
彼女は目を大きく見開く
「びっくりした、来てくれたの?」
彼女に近づき花束を差し出す
「これ」
ダーズンローズ
ーヨーロッパの男性はプロポーズの時それぞれに意味のある12本のバラを渡す、それが新婦のブーケの起源ー
「お前、6年待てんの?」
「え?」
ー他の花束と同じだと思われるかもしれない。伝わらないかもしれない。でも彼女はフランスはロマンチックだと言ったー
「俺が医学部卒業したら…その
「いいわ、私がフランス人に落とされてなければね」
そう言って彼女は俺の渡したバラの中から一本を引き抜いて、俺のスーツの胸元に差した
ープロポーズの答えがイエスの場合、渡されたバラの中から一つを胸元に返す…それが新郎の胸元に咲くブートニアの起源ー
俺は彼女を抱きしめキスをした
彼女を取り巻いていた観衆から拍手が巻き起こる
「お前、ほんと今日めちゃくちゃキレイだ」
ーend