第27章 peace of mind 赤葦
「確かに忙しくはあります、あの日のお礼まだ言えてなかったですね」
「お礼?」
「俺がネガティブになってた時です…橘さんが俺と宇内先生ならいい作品が作れるから、2人で沢山話し合ったほうがいいって言ってくれて、今の作品が出来上がりました」
「ふふ、メテオアタック大当たりだもんね。でも相変わらず取材であちこち飛び回ってるんでしょ」
「そうですね…もしかして領収書で?」
「うん、頑張ってるなぁ…忙しいんだろうなぁって思ってたよ。だから私も赤葦くんのため…に」
「橘さん?」
彼女は話しながらウトウトと眠ってしまった
月末が近く、彼女自身の仕事もかなり忙しいのだろう
今日だってこんな時間まで社に残ってたわけだし、よほど疲れているのだろう
頬杖をつきながら目を瞑っている彼女を見つめる
マジマジと顔を見るのは初めてだけど
抜けるような白い肌に長い睫毛に少し厚めの唇に
…触れてみたい、なんて…
っていうか、さっき橘さん、俺のためにって言ってたような…
違う違う、俺たち編集部のためにってことだろう
危うく勘違いしそうになって首を左右に振る
俺は会計を済ませると、眠っている彼女を抱えて店を出た
大通りに出て、タクシーを掴まえると彼女を奥の席に押し込んだ
とてもじゃないが彼女は行先を告げられる状態でない
俺は一緒にタクシーに乗り込み、彼女の耳元で住所を聞いて運転手さんに伝えた
彼女は俺に住所を告げると、再び眠りに落ちて、俺の肩にもたれかかってくる
さっきは対面だったけど、これはやばい
ふわふわの髪からいい匂いがする
理性が徐々に奪われていく
俺は必死に仕事のことを考えながら、車窓を眺めていた
しばらくタクシーが走り、目的地付近に到着した
「橘さん、橘さん?着きましたよ」
「ん…」
辛うじて返事はしてくれるものの、1人で歩いて部屋に辿り着くのは難しそうだ
俺は彼女をおぶってタクシーを降り、彼女のマンションのエントランスをくぐった
「何号室ですか?」
「ん…?505…?」
「何で俺に聞くんですか」
社内での凛とした振る舞いからは想像もつかない一面に、思わず吹き出す
エレベーターで5階まで上がり、彼女の部屋についた