第27章 peace of mind 赤葦
「子供や若い子たちが楽しみにして憧れる作品を、現地に足を運ばず妄想や捏造で書けと仰るんですか!!ってさ」
「じゃあ尚更そんな経理部の方たちに迷惑はかけられません、さっさと報告して帰りますね」
「そうしてやれ、じゃあお疲れ様」
そう言うと編集長はフロアを後にした
さて、もうひと頑張り
俺は眠気覚ましのコーヒーを求めて自販機に向かった
今日は間違えないように、ブラックコーヒーのボタンを何度も確認して押す
ガコンッ
「ふふっ」
後ろから誰かの笑い声がして振り返る
「橘…さん」
「ごめん、なんかすごい何回も確認してたから可愛くて笑っちゃった」
彼女の顔を見ていろんな感情が渦巻き出す
コーヒー買うごときに何回も確認してたのを見られて恥ずかしいとか
前回食事に誘ったのにはぐらかされた気がすることとか
会えてすごい嬉しいだとか
経費報告忘れてて申し訳ないこととか…
「申し訳ございません!」
「うぇ?!」
「経費報告をまたしても忘れておりました!今から至急申請しますので、よろしくお願いします」
そう言って90度に頭を下げる
「いいよいいよ、期限は明日までだし…それに私ももう今日は終わったから帰ろうと思ってたから、申請して貰っても見られるの明日だし」
「そ、そうですか?」
「それに今日も今まで仕事だったんでしょ?疲れてるのに無理しなくていいよ、帰って休んで?」
「ありがとうございます…でも」
「本当に大丈夫だから、それじゃあね」
そう言って帰ろうとする彼女
さっきは突然会えたことにテンパって気づかなかったけど、よく見るとなんだか元気がないような気がする
パッ
帰ろうとする彼女の腕を掴む
「何かあったんですか?」
「え…ぁぁ…大したことじゃないから」
「俺でよければ話してください、聞きますから」
「でも疲れて…
「大丈夫です」
「それじゃあ…前言ってた、ご飯でもって話…まだ有効かな?」
「も、勿論です!すぐ用意してきますので下で待っててください!」
俺は買ったばかりのまだ温かいコーヒーを握りしめ、全速力で自分のデスクに戻る
社内でこんなに慌てて走ったこと、今まであっただろうか
エレベーターを待つ時間さえ惜しく、転げ落ちるように階段を駆け降りる
「っ…ハァハァ…お、またせしました」