第27章 peace of mind 赤葦
「だから夢を与える少年誌を作る人らしく、自分に自信を持って前向きに頑張ってね」
「はい、なんか俺…ごめんなさい」
「やだ、謝らないで。私、赤葦くんと宇内先生のコンビならもっともっと良いもの出来るって思うよ。もっとお互いのことゆっくり話してみたらどうかな?打ち合わせじゃなくて、ご飯食べながらとか。2人は何か共通点とかないの?」
「バレーボール」
「バレーボール?」
「はい、俺も宇内さんもバレーボールの強豪校出身で、春の高校バレー聞いたことありますか?あれに出場した経験もあります」
「え、凄いじゃん!しかも2人とも?!」
「ええ、それで次はバレーボール漫画を書こうかって企画してて」
「そうなの?じゃあゆっくりご飯でも食べながら、自分達がやってきたバレーのこといっぱい話してきなよ」
そう言って彼女はニコリと微笑む
そして席を立って
「じゃあ、もう一仕事頑張ろうね」
と言って歩き出した
「あっ、待ってください」
唐突に立ち上がった彼女に慌てた俺は、咄嗟に呼び止めてしまった
「ん?」
「その…ゆっくりご飯、俺たちも今度行きませんか?」
ヤバい
テンパってワケわかんないこと言ってる
今日初めて顔合わせて話したばっかりなのに
「いやっ、その…コーヒーのお礼というか」
「お礼?私コッチ貰ったよ」
そう言いながら、彼女はカフェオレの缶を左右に振る
「いえ…そうでなくて」
「ふふ、でも今の赤葦くんはアレでしょ?一刻も早く宇内先生と打ち合わせして、良い作品を作りたいんじゃない」
まぁ…そうだけれど
「だから、私のことはまた今度でいいよ。赤葦くんが落ち着いたら…ね」
そう言って彼女は別のフロアへと戻っていった
今のは、はぐらかされたのか
遠回しに断られたのかもしれない
はぁ…
彼女にとって俺なんて、他部署の後輩で…
しかも経費報告は忘れるわ、コーヒー買い間違えるわ、弱音吐くわ
だっさ
メガネを外し、頭をクシャクシャと掻きむしる
彼女が言った通り、弱音なんて吐いてられない
多分次の作品もダメだったらって弱気になってた
そんなんじゃだめだ
メガネをかけ直し、頬をピシャンと叩くと、自分のデスクへと戻っていった