第27章 peace of mind 赤葦
「今朝は本当にすみませんでした」
俺は改めて、経費報告を忘れていたことを謝罪する
「全然大丈夫ですよ」
「て言うか俺後輩なんで、敬語じゃなくてもいいです」
橘さんは、俺の2期先輩だと聞いていた
「そう?じゃあ普通に話すね」
「お願いします。橘さんはいつもこんなに遅くまで仕事してるんですか?」
「ううん、明日月末だからね。今月分の締めとか報告とか…」
「そんなにお忙しいのに、俺…橘さんの手を煩わせてしまって…」
「いや、本当気にしないで!ただ、赤葦くんはいつも期限は守るし、内容も正確だから…どうしたのかなって思っただけで。忙しいんでしょ?」
「…はい」
「分かるんだよ?」
「え?」
「経費の申請1つでね、こんなところに取材に行ったんだとか、毎日すごい距離移動してるなぁとか…だから最近の赤葦くんの頑張りは凄く伝わってる」
「そう…ですか?でも中々結果も出ないし、正直自分がやってることが正しいのか分からなくなることが多いです」
何故だかそんな弱音をポツリと吐いた
今日初めて話した先輩なのに
先輩はずっと頷きながら俺の話を聞いてくれる
「今回、宇内先生の作品が打ち切りになったのも俺の力不足ですし…やっぱり怖いです。次もダメだったら…って」
「少年誌の編集なんて夢を売る仕事をする人が、そんな弱音吐いちゃダメだよ」
「え?」
「私ね、実は編集希望だったんだ」
「そうなんですか」
「小学生の時にヴァーイで連載してる漫画に引き込まれて、夢や希望を沢山もらったの。たっくさん漫画読んでね、それに携わる仕事がしたいって思って…でもね、残念ながら絵や文の才能が全くなかったっていうね」
そう言って橘さんは少し悲しそうに笑う
「だから編集を目指してたんだけど、これもやっぱりクリエイティブな仕事で…編集部には行かせてもらえなかった。あ、でも今はそんな私の憧れの仕事をしてるあなた達をサポート出来る、この仕事に満足してるけどね」
そうだったんだ
編集を目指していて諦めた人の前で、俺はなんて弱気なことを…