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桃紅柳緑【鬼滅の刃】【R18短編集】  

第11章 ※炎炎 【煉獄杏寿郎】 1


「・・・あ。」

あやが吊革につかまっていた俺の左手の薬指の結婚指輪に気づく。あやは吊革を握っていた右手を離して人差し指でトンと俺の薬指とプラチナの指輪に触れた。そして何かを考えて、ほんの少しだけ困った顔をして俺を見た。
俺はその表情に心臓をぎゅっと掴まれる。少し目を伏せて瞬きしてから、あやの目を見る。

「結婚したんだ。4カ月前に。・・・君・・・は?」

君がいないと思ったからと口を衝いて出そうになったのを飲み込んで、彼女の今を尋ねた。

「今、大学生。結婚はまだしてない。・・・杏寿郎、結婚おめでとう。今いくつになったの?」

あやは、少し寂しそうに微笑んで俺を見る。また俺の心臓はぎゅっと掴まれた。あと二駅で降りなければならない。

「・・・ありがとう。俺はもうすぐ25歳だ。」

「・・・25歳になるんだ。・・良かった。杏寿郎、会えて嬉しかった。・・お幸せに。」

あやは下を向いて涙を一粒零した。その涙は俺が前世の年を超えた事へか、結婚をしていた事へか・・。
そしてあやは「じゃ私、大学行くね。」とドアが開くと同時に俺の大好きだった笑顔で手を振り、電車を降りた。

俺は笑顔が返せていただろうか。『追いかけろ』と頭の中で声が聞こえたが、追いかけてもお互い辛いだけなのは理解できていたので、踏みとどまった。

彼女の姿が見えなくなると一気に目頭が熱くなった。涙を零してしまわない様に、今日の授業の事を考え始めることにした。最寄りの駅に着いて改札を出る頃には涙は引いた。
俺の目的の駅と彼女の目的の駅はたった一つしか違わなかった。ほんの15分の差でこれまで出会えなかっただけだった。

・・・せめてあと半年早く会っていれば。と思いながら結婚指輪を見た。・・・・・早ければ・・・どうするつもりだったんだろう。俺は。
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