【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第3章 人でなし
鼻から出汁の香りが抜ける。
優しい玉子の味、ちょうど良い柔らかさのお米
人の手料理を食べたのは何年ぶりだろう。
「…美味しい」
頬の緊張が緩んでいく。
「それは良かった」
そよ香が見た沖矢の顔は
前に会った時と同じ、
柔らかく、包まれるような笑顔だった。
「はい、ではもう一口」
「じ…自分で食べられますっ!」
なんだか急に恥ずかしくなって
沖矢の手からスプーンを奪う。
「おや、それは残念」
今度はからかうような笑顔になった。
「では、また後で伺います」
そう言うと、
沖矢は食後に飲む薬の説明を一通り済ませ
部屋を出ていった。
(…掴み所のない人)
思い返せば昨日バイトの休憩中に軽食をとってから
もう1日が経ってる。
体調が思うようにいかなくても
お腹は空くものだ。
呼吸をするだけでエネルギーは消費される。
あっという間に沖矢が用意してくれた食事を
たいらげてしまった。
言われた通り薬を飲み、再びベッドに横になる。
(あんなに寝たのに、まだ寝られそう…)