【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第3章 人でなし
「熱いですね。
昨日のことがありますので、複数の薬を用意してあります」
昨日のこと…
第3者である沖矢の口から発せられたと言うことは
あれは現実だったのだと思い知らされる。
「… …」
涙がこぼれ落ちそうなのを我慢して
そよ香は顔を横に向けたが、
1粒、2粒と枕に吸い込まれていく。
沖矢は体勢を変え、ベッドに腰掛けると
そよ香の頬を優しく撫でた。
「…もう、大丈夫ですよ」
その手が、その声が
そよ香の頭にこびりついた恐怖を
そっとすくってくれたような気がした。
目頭が熱くなり、胸の奥が痛くなる。
無理やり布団を引っ張って、頭までかぶった。
名前しか知らない人に
これ以上、自分の弱みを見せたくなかった。
*
*
*
「…さん、そよ香さん」
何度目かの名前を呼ばれたとき、
自分が眠ってしまっていたことに気がついた。
「ん…」
「すみません。気持ちよさそうに眠っていたので
起こしてしまうのは気が引けたのですが、
もう半日以上飲まず食わずなのは
いかがなものかと思いまして。
薬も飲んでいただきたいですし…」