【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第3章 人でなし
そよ香が次に目を開けると
見覚えのない天井が視界にうつる。
オフホワイトの地に金色のダマスク柄が施してある。
いやらしい派手さはなく、上品で美しい。
(…どこ?)
キョロキョロと瞳だけを動かし、
自分の置かれた状況を把握しようとする。
ベッドのそばに一人がけ用のソファがあり、
男が座って本を読んでいた。
ブックカバーがかけられていて
どのような本なのかは分からない。
「お目覚めですか?」
本にしおりを挟んでサイドテーブルに置く。
「また、お会いできましたね…」
「お…きや…さ…?」
何が起こっているのか確認するために目を開けたのに
余計に混乱するだけだった。
具合が悪いのも相まって、思考が停止する。
沖矢はおもむろにベッドに近づくと
右手をそよ香の頭の横につき、
真上から顔を覗き込む。
キシッと沖矢の体重の分だけベッドが沈んだ。
「失礼します」
一言断りを入れると、
そよ香の前髪をかき分け、おでこに左手を当てる。
沖矢とは正面から向き合っているはずなのに、
どこか視線が合わないような
不思議な感じがした。