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【進撃の巨人】一番の宝物【短編・中編物語】

第1章 オフレンダ





不意に扉が開かれて、足早に男が二人入って来た。
小さな白い部屋には風が舞い起こり、マリーゴールドの甘い香りが霧散してゆく。


中年男と若い男の二人組であった。
一人は壁際に寄せられた机に座り、タイプライターを置いた。
もう一人、金髪に青い瞳の中年男が、私の目の前に座った。


彼はテーブルの上から、私に向かって骨ばった右手を差し出し、言った。



「エルヴィン・スミスだ」


私は慌て自分の右手を出した。
男の皮の厚い拳が、私のかさついた拳にきつく喰い込んでくる。



「何から聞けばいいのか……」


握手を済ませそう言ったきり、彼は言葉を探すように間を開けた。
思い切り間を空けて、そして自棄になったように吐き捨てた。


「名前は」
「ムェルテです、刑事さん」


私は慌てて答えた。
彼の纏う空気が私にそうさせるのだ。


「刑事さんは止めてくれ、エルヴィンでいい。出身は?」
「シティです」
「ん……?メキシコ・シティ?」
「はい」
「シティからここに来たのか?」


私は深く肯いた。


「屋敷に勤めて何年になる」
「もう十五年になります」
「長いな…」



刑事の後ろで、若い男が(おそらく彼も刑事か何かだろう)がタイプライターのキーを弾く。
その音が止むのを待って、刑事は私への詰問を再開した。



「なんでまた、アグエスカリエンテスに?」


刑事は黙って私を見たが、私は言わなかった。
それを汲んでか、彼は頭を掻き回しながら付け足した。


「違うんだよ。私は君を脅してるわけじゃないんだ」


男の青い目が、じっと私を見つめてくる。


「ただ、知りたいだけなんだ」
「……」
「リヴァイに何があったのか。ただ、知りたいんだ」


私は答えられず、男の武骨な指に視線を落とした。

また窓の隙間から花の香りが舞い込んできた。
がたついた椅子が三つと、木製の机が二つ。
人間が三人。
そんな部屋には場違いなほどに可愛らしい香りだけが、静かにその場を支配していた。





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