第1章 オフレンダ
ふと、イザベラ様の言葉が思い出された。
旦那様に内緒で出かけた公園で、雨に濡れるオフレンダを眺めながら、そう仰ったのだ。
十一月の雨と、標高ゆえの冷気に白い指先は冷たそうだったが、風を避けるように立てたコートの襟を抑える所作は田舎街の公園に似つかわしくなく、
ただただ美しいだけであった。
物影で一休みするマリアッチを横目に、私は、戻られた旦那様がご立腹なのではないかと気が気ではなかった。
しかし、戻りましょうとは言い出せず、イザベラ様がその場を離れようとするまで私は、黒髪に埋もれた小さなつむじに傘を差し向け続けた。
死者の日の祭りが雨だなんて、本当にもったいなかった。
できればまた来年……と私は何度も願ったが、結局、私の願いは叶えられなかった。
あの時の私には、人ごみの街中にイザベラ様を連れ出すようにと旦那様に意見をできるほどの度量もなければ、身の程も皆無だった。
私はイザベラ様の喜ぶことは何でもしてさしあげたかったけれども、同時に、旦那様の悲しむことだけは絶対に、押し通すことができなかったのである。
また、マリーゴールドが風に乗ってやってきた。
あの年の今日も、そういえば、雨だった。