• テキストサイズ

【進撃の巨人】一番の宝物【短編・中編物語】

第1章 オフレンダ






小さな部屋に、マリーゴールドの香りが忍び込んできた。


甘く可愛らしい香りを辿り、私は窓辺に視線を寄せた。


外は相変わらず、どんよりとした雨空である。

濡れて濃くなったのだろう。
花の香りが風に乗り、ほんの少し開けられたガラスの隙間を縫い、ここまで運ばれて来るのだ。


市警の前に広がる公園は、死者の日を祝うオフレンダで溢れ返っていた。

さっきまで公園を走り回る子供たちの声が聞こえていたのに、それもいつしか遠くなってしまった。
雨脚の強くなりそうな空模様を心配して、家に帰ってしまったのかもしれない。

私はここに来る途中に見たオフレンダを思い浮かべた。


遺影に手紙。
砂糖を固めた骸骨やお化け。
四角く緑色取られた小屋のような組木の中は壁にも柱にも屋根にも、至るところにマリーゴールドが飾られていた。
お菓子やジュース、お酒の供えられた色とりどりの祭壇は、目に楽しく心の踊る場所である。
どのオフレンダの前だったか、黒い衣装のマリアッチが軽快な音楽を奏でていた。


自然と人が集まり、手を叩き、歌い、踊る。
街中が浮足立ち、音楽と笑い声で溢れ返る。
死者の日は、そんな祭りであった。



『雨なんて、もったいないね…』



/ 6ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp