第1章 1
「おや、大丈夫かい?」
声をかけるとすぐに離れたけど、男の子はニィとしてやったりな顔を向けてきた。
そしてその子は高々と腕を上げた。
「取ったどー!」
「あっコラ!」
高々と上げた手の中には私の財布。
えぇ……あの一瞬で盗ったの?
「盗った物を見せびらかしてどうするんスか!?持ち主が帰るまで我慢っスよ!!」
おーーーい。通行料チャラとか言いながら君も共犯かーーーい。
ま、いいか。通帳やカードといった物や身分証なども入っていないしね。
私は男の子の目線まで屈むと、頭をゆっくり撫でた。
「小銭しか入ってないけど……欲しければどうぞムシュー」
「えっいいの?」
「いやぁ悪いっスね〜。うちのチビが悪戯っ子で!」
ニヤニヤ笑ってるところ悪いけど、キミこの子が財布盗ったの知ってたでしょ。
男の子がわくわくしながら財布の中身を開ける。ハイエナくんも興味津々に中を覗いた途端、目を見開いて固まってしまった。
「こ、これ小銭ってレベルじゃないっスよ……あんたもしかして良家のご子息とか?」
「ノン。確かにお金に困ったことはないけれど、良家という程でもないよ。実家は自営業だからね」
どのくらいの金額が入っていたのかはご想像にお任せしよう。
それにしても……通行料といい、スリといい、そうでもしないと生きていけない程にこの子達は追い詰められているのか。
私にも何か協力できることがあればいいんだけど──ああ!そうだ!
「私は狩りや料理が得意でね。余った料理を是非キミ達に食べてもらいたいのだけど、お願いできるかな?」
「は……?な、なんスか急に。貰える物は貰っとくっスけど」
「メルシー!とても助かるよ!」
ちょっと警戒されたけど、あっさりと聞き入れてもらえた。
前世での教育の賜物だ。同情されることを嫌う人がいるので、協力を申し出たい場合はこちらからお願いという形をとる。
そして、いつ嫁にいっても恥じぬよう、家事全般叩き込まれたのが今世でだいぶ役立っている。
「ああ、そういえばまだ名乗っていなかったね。私はルーク・ハント。キミの名前を聞いてもいいかな?」
「ラギー・ブッチっス。よろしく、ルークさん」
こうして新しい友達が出来たミドルスクール最後の夏。
ラギーくんとは長い付き合いになりそうだな、と直感的にそう思った。