第2章 内気な女優
ドラマ撮影も順調に進んでいた。
初日はうまく話せなかった二階堂さんとも、今ではかなり打ち解けることができた。
というのも、気を遣って根気よく話しかけてくれたからなんだけども。
それでも、私の中では大きな出来事。
二階堂さんの演技は前から見ていて、すごい人だなとは思っていたけれども、画面越しでみているよりも、実際に対面した方が衝撃が大きかった。
こんなにも共演相手を引きずってくる人がいるなんて。
初めて本番を撮っている時は、何かが持っていかれそうでヒヤヒヤしたのを覚えている。
そして今は撮影の合間の休憩時間。
今日はロケ撮影とあって、日焼けを気にしないといけない。
定期的に自分で日焼け止めを塗り直して対策をしている。
今は二階堂さんだけのシーン撮影。
でも、今日はなんとなく調子が悪いのか監督さんからよくNGを出されている。
すると、どうもちょっと休憩してもう一度取ることになったらしい。
少し暗い顔をした二階堂さんはそのままどこかへ行ってしまった。
なんとなく放っておけなくて、二人分の飲み物を持って後を追いかけた。目的の姿は思ってたよりも早く見つけた。
近くにあった公園のベンチで、小さな子たちがボールで遊んでいるのをぼーっと見ていた。
「あの、二階堂さん」
そこで初めて私に気づいた反応をした。
「あぁ、柏葉さん」
「あの、よければこれ」
持ってきた飲み物を渡して、隣に座らせてもらう。
しばらく何も会話はなかった。
ただじっと、目の前に広がる可愛らしい光景に目をやる。
「大丈夫ですか?えっと、今日はあまり調子が良くないですか?」
「まぁ、そんな感じです。ちょっと色々あってあんまり眠れてないんです」
そこで会話が終わってしまう。
色々あるとだけの言い回し。
そういう時ってあまり話したくないだろうし、私に何かできるわけじゃない。結局手持ち無沙汰になって、持っている飲み物を手で挟んでコロコロと動かすことしかできない。
別に先輩風を吹かしたいとかは一切ないけれども、うまく聞き出すことも、うまく励ますこともできないのがやるせない。
ようやく話せるようになってきたのに。
「すみません、俺のせいで時間押しちゃって」
「え、いや。そんな」
変な話、こういった立場は湊川さんで私はどちらかといえば励ましてもらう方だったから。
