第1章 内気な子
スタジオの空気が体にまとわりついてくる。
明るい照明に賑やかな空気、普段あまり触れることのない雰囲気に思わず怖気づいてしまう。
気が付けば胸の前で祈るように手を組んで、脚は軽く震えていた。
「それでは登場していただきましょう!本日のゲストはこの方です」
いつもドキドキしている心臓と戦っている。
でも今日はまた違う。
振るえる足に力を入れ一歩を踏み出すと、歓声と共にたくさんの拍手で迎えられていた。
「今話題の人気女優、柏葉ななかさんです!」
「こんにちは」
人気の芸人さんやアイドルさんたちに囲まれて、今度出るドラマの宣伝をするために、必死に笑顔を作る。
大丈夫、いつも通りでいれば何とかなる。
必死に自分を作っているうちに時間は経ち、お疲れさまでーすという声と共に収録が終わった。
お疲れ様ですとキャストの人たちに声をかけつつ、フラフラとした足取りで楽屋に向かう。
「はぁ、疲れた…」
楽屋についてから、差し入れのお茶に口をつける。
緊張でのどが渇いていたせいか、一気に半分ほど飲み切ってしまった。
やっと一息ついたところで、ドアがノックされそのまま開いた。
「ななか、お疲れ様。頑張ったわね」
「うぅ、湊川さぁーん」
マネージャーの湊川さんは、所謂できるキャリアウーマン。
引っ込み思案気質な私を、スカウトしてくれてここまで連れてきてもらった。
私の前に座って早速、一冊の台本を机の上に置いた。
恐る恐るそれを手に取ると、ドラマの台本だった。
「これって」
「次の仕事の台本。なんでも今回のドラマ撮影の時にその監督さんがたまたま来ていたみたいでね。ぜひ、ななかに主演をしてほしいと直々にオファーがあったのよ」
最初のページに書かれているスタッフとキャストの名前に目を通していくと、昨年ドラマアカデミー賞で最優秀に選ばれた監督だった。
「うそ、ほんとに?」
いつかこの人の作品に出たいと思っていた監督さんからのオファーに、戸惑ってしまう。
「もちろん、出るんでしょ?」
「う、うん!頑張りたい」
そういうと湊川さんはさっそく返事を出すため、電話をしに廊下に出て行った。
いまだに信じられない気持で、背もたれから離れていた体を戻し、一気に力が抜けた。