第10章 雨だれのフィナーレ【呪胎戴天/雨後】
「……ユージ……」
ポツリと詞織が呟き、静かに涙を流す。そして、縋るようにして伏黒の服を掴み、胸に顔を埋めた。
声を殺して肩を震わせる詞織を抱きしめる。
「アンタたち、仲間が死ぬのは初めて?」
「同級生(タメ)は初めてだ」
詞織は答えない。きっと、答える余裕などないのだろう。
今までの死とは違う。一緒にいた時間は短いが、虎杖はすでに詞織の心の内側に入っていた。もちろん、釘崎もだ。
少なくとも、詞織自身が自分の命より優先させたいと思うほどに。
自分の力が至らなかったせいだと気に病み、心の中に閉じこもってまで拒絶したいと思うくらいの現実。
釘崎は「ふーん」と相槌を打つ。
「詞織はともかくとして、アンタはその割に平気そうね」
「……オマエもな」
「当然でしょ。会って二週間やそこらよ。そんな男が死んで泣き喚くほど、チョロい女じゃないのよ」
釘崎の言葉を聞きながら、彼女が思うほど平気ではないと自覚している。そして釘崎の方も、自分が思うほど平気ではないだろう。その証拠に、釘崎は震える唇を噛み締めていた。
虎杖が死んだのは、詞織のせいではない。ただ、伏黒たち三人の力が及ばなかったことが原因だ。
「……暑いな」
詞織の頭を撫でると、コクコクと頷きつつも離れる気配はない。別に、離れてほしくて言ったわけではない。ただ、なんとなく口をついて出た言葉だ。
「……そうね。夏服はまだかしら?」
六月の終わり……降りしきる雨の中で、大切な仲間を喪った。
それでも時間は止まらず、現実は暑い夏を連れてやってくる。
医務室の窓の外からは、夏を予感させるジリジリとした陽射しが注いでいた。