第10章 雨だれのフィナーレ【呪胎戴天/雨後】
――バンッ!
唐突に、医務室の扉が乱暴に開かれた。
目をパチクリとさせて入口を見ると、長いバッグを背負った、眼鏡を掛けた少女がポニーテールを揺らして立っていた。
「なんだ。いつにも増して辛気臭いな、恵。お通夜かよ」
そう言って、伏黒の胸で泣く詞織に気づき、彼女は青筋を立ててこちらを睨みつけてくる。
「恵ィ……とうとうやりやがったな。あたしの可愛い妹分を泣かせるとは……サンドバッグにしてやるからちょっと来い!」
「ま、真希さん! わたしは……」
「詞織は黙ってろ」
「禪院先輩」
詞織の言葉に耳を貸さない彼女――禪院 真希は、伏黒の呼びかけにますます表情を険しくする。
「あたしを苗字で呼ぶんじゃ――」
そこへ、「真希、真希」と扉の陰から呼ぶ声。口元を隠した少年と……パンダだ。パンダは声を潜めて真希に話す。
「マジで死んでるんですよ、昨日! 一年坊が一人‼」
「おかか!」
真希はどうやら知らなかったらしい。
自分のこれまでの発言を思い出し、真希は顔を青くさせてダラダラと汗を流す。
「は、や、く、言、え、や! これじゃ、あたしが血も涙もねぇ鬼みてぇだろ!」
いや、実際にそんな感じだった。
彼らのやりとりに悲しみが紛れたのか。
詞織がぎこちない笑みを浮かべる。そのことに、伏黒は少しだけ安心した。
「何、あの人(?)たち」
人が疑問形なのは、おそらくパンダのことを言っているのだろう。まぁ、当然か。