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夢幻泡影【呪術廻戦/伏黒 恵オチ】

第10章 雨だれのフィナーレ【呪胎戴天/雨後】


 ふと、目を覚ました伏黒は、今まで何をしていたのか分からなくなり、直前の記憶を辿った。ぼんやりとする頭に手をやる。

「おかえり、詞織」

 聞き慣れた五条の声が詞織を呼んだ。その声に、伏黒もバッと顔を上げる。

「……ただいま、みんな」

 照れくさそうに、はにかむように詞織が微笑む。
 その微笑に対して、一番に動いたのは釘崎だった。寝台に片足を乗せ、ガバッと詞織を抱きしめる。

「バカ! 心配させてんじゃないわよ!」

 憎まれ口で本心を隠しつつ、涙を流す釘崎の背に手を回し、詞織は「ありがとう」と繰り返した。
 そして、五条も詞織の傍に寄り、小さな頭を撫でる。

「星也、恵」

 五条は伏黒たちを呼び、グッと親指を立てて労った。

 泣き続ける釘崎に、伏黒は思う。
 そろそろ、代わってもらえないだろうか。
 自分も早く詞織に声を掛けたいし、抱きしめたいのだが。

 もちろん、そんなことを言える空気でもないので黙っている。

「星也」

 不意に五条が星也を手招きし、医務室の外へと呼び出した。

「三人とも、今回は頑張ったね。本当に……生きててくれて良かった。あまり長居はしないで、できるだけ早めに部屋に戻るんだよ」

 そう言って、五条は医務室を出る。それと入れ替わるように、星也が詞織を胸に抱きしめた。

「詞織……まだ言えてなかったね。おかえり」

「ただいま、兄さま」

「もう大丈夫?」

「……うん、大丈夫。メグが、いてくれるから」

 自分の名前が出たことに反応すると、夜色の大きな瞳と目が合う。

「ありがとう、メグ」

 あぁ、と素っ気ない返事しかできない自分が恨めしい。

 やがて、五条と星也は医務室を出た。
 気まずい沈黙が降りる。バチッと三人の目が合い、誰からともなく逸らした。
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