第10章 雨だれのフィナーレ【呪胎戴天/雨後】
「詞織……」
「……わ、たし……」
抱きしめる伏黒の背に、小さく震える手が回される。
『詞織……?』
呆然と呟く詩音に視線を向けることなく、詞織は伏黒の胸に顔を埋めた。
「世界で一番、詩音を愛してる……この気持ちは、'絶対"に変わらない……」
でも、と詞織は続け、大きく息を吸い込んだ。
「でも……メグのことは、世界で……一番 大好きなの……ずっと、一緒にいたい……っ!」
ジワリと胸の奥が締めつけられ、温もりが広がる。衝動的に抱きしめる腕に力を込めた。
『なんで……その男だって死ぬのよ⁉ あなたを置いて逝くわ! "絶対"! あなたはそれでいいの⁉』
「もしそんなことになっても――それでも俺は……詞織を愛する」
詞織への尽きることのない愛情を遺す。詞織が寂しくならないように。その事実と想いがあれば、詞織はずっと、自分のことを感じられるはずだ。
『それが詞織を傷つけることになっても?』
「傷つくと思う……きっと、悲しくなるし、苦しいに決まってる……けど、もう挫けない。挫けるのは、これが最後にする。メグが、わたしに生きろって言ってくれた。一緒に生きたいって……一緒に背負うって言ってくれたから。わたしは一人じゃない。メグが一緒にいてくれれば、わたしはいくらでも強くいられる」
詞織の宣言に、詩音は唇を震わせた。紅い瞳が大きく揺れ、拳がきつく握りしめられる。