第10章 雨だれのフィナーレ【呪胎戴天/雨後】
「――詞織の生得領域に入り、連れ戻す」
「連れ戻すって……そんなことができるんですかッ⁉」
星也の言葉に、伏黒は思わず叫んだ。
自分ならまだしも、他人の生得領域に入るなんて。
疑うわけではないが、信じられない――というのが、正直な気持ちだ。
目をパチクリと瞬かせる釘崎を置いて、伏黒は星也の言葉を待つ。
「……――可能だ」
そのとき、ガラッと医務室の扉が開かれた。
「星也――来ていたんだね。星良は――……まだか」
現れたのは、目元を覆い隠した男性――五条 悟だ。彼はグルリと室内を見回し、詞織に目を止める。
「詞織は?」
「これから連れ戻します」
即答する星也に、五条は「そっか」と悲しそうに微笑んだ。
「じゃあ、待ってるから。頼んだよ、星也」
星也は黙って頷き、夜色の瞳を伏黒に向けた。
「あの……」
「恵も来るだろう?」
え、と返すも、伏黒はすぐに頷く。
「連れて行ってくれるんですか?」
「あぁ。たぶん、僕一人の力じゃ連れ戻せないと思うからね」
そう言って、星也は指示を出した。
「恵は詞織の右手を握って――……そう。そのまま目を閉じて」
言われた通りに目を閉じる。
「五条先生……」
「大丈夫だよ、野薔薇。僕たちは詞織が帰って来るのを待っていよう」
ポンポンと釘崎の頭を撫でる五条たちの気配を感じていると、厳かな真言の詠唱が聞こえた。