第10章 雨だれのフィナーレ【呪胎戴天/雨後】
おそらく、今回の一年生の派遣は、五条に対する上層部の当てつけだ。その証拠に、五条が不在の間に任務が言い渡されている。
五条が無理を通して、宿儺の器である虎杖 悠仁を助けた。そのことをよく思わない上層部の人間が、たまたま現れた特級呪霊を利用して抹殺しようとした。
仮に詞織たちが命を落としたとしても、五条に対する嫌がらせになる。
――腐っている。
まるで、人間の命を命とすら考えられない上層部のやり方には、常々憤りを感じてきた。
だが、今回のことに関して、黙って知らぬふりはできない。
「……二人ともよく聞いて」
星也の呼びかけに、俯いていた伏黒と釘崎が顔を上げる。
「虎杖君のことは……どうにもしてあげられない。だから、忘れないでほしい。彼が今まで、どう生きてきたのか。どう生きようとしていたのか」
どういった生き様に憧れていたのか。
忘れないことが、生きている自分たちにできる、死者への弔い。
だから、星也も忘れないようにしている。
今まで、両の手から零れ落ちた、何百、何千、何万という助けられなかった命のことを。
嬉しいとき、悲しいとき、楽しいとき、辛いとき。
ふと立ち返って、彼らがこれから歩むはずだった人生に思いを馳せるのだ。
そして、噛み締める。
この幸福が、罪であるということを――……。
「星也さん、"虎杖のことは"って……?」
含んだ言い方に気がついた伏黒の問いに、星也は内心で「さすが、鋭いな」と感心した。
「伏黒、どういう意味?」
「だって……まるで、詞織はどうにかできるみたいな言い方……」
窺うような二人の視線に、星也は「あぁ」と頷く。