第10章 雨だれのフィナーレ【呪胎戴天/雨後】
星也が医務室に着くと、伏黒が出迎えてくれた。中へ入れば、茶髪の少女も、沈んだ表情で会釈してくる。
簡単に自己紹介を済ませ、星也は寝台に横たわる詞織を見下ろした。
「星也さん、星良さんは?」
「今 こっちに向かっているけど……すぐには難しいだろうね。出雲大社の近くにいるみたいだから……」
「そう、ですか……」
ギュッと拳を固く握り締めた伏黒は、表情を歪ませ、バッと頭を下げる。
「すみません! 俺が……俺が、詞織を置いて逃げたから……!」
シン……と沈黙が降りる。釘崎と名乗った少女は何も言わず、ただ悔しそうに唇を噛んでいた。
今回の任務について、星也はここへ到着する直前に、五条と共に補助監督である伊地知から話を聞いていた。
相手は特級呪霊。しかも、探すのは生死不明の人間五人。少なくとも、一年生を派遣するなど、頭がおかしいとしか思えない。
その結果、詞織は意識不明、虎杖は死亡。
むしろ、よくやったと言えるだろう。全滅でもおかしくはなかった。
「恵は何も悪くないよ。どうせ、詞織が無理を言ったんだろう」
星也は伏黒に対して強い信頼を置いている。もちろん、彼の詞織に対する恋慕を知った上でだ。
大切な妹を、伏黒にならば任せてもいいと思っている。
詞織たち一年が件(くだん)の刑務所で何を話し、どう行動したことで今回の結果になったのかは分からない。
ただ、詞織は頑固だ。きっと、詩音の力を借りれば乗り切れると、自分が残ることで全員を逃がそうとしたのだろう。
「詞織……」
釘崎が呟き、ギュッと唇を噛み締める。
この件は、二人に大きな影を落とすことになるだろう。
星也は眠る詞織の枕元まで移動し、優しい手つきで髪を撫でた。