第9章 グラン・ギニョールの演目【呪胎戴天】
『……ぁあ……』
詩音の小さな悲鳴に、虎杖は痛みと恐怖をねじ伏せ、庇うようにして前に出た。両手を構え、放たれた光のドームを受け止める。左手は失っているが、構っていられない。
ジュッと触れた指先が溶ける。そして、ボロボロと崩れていった。
『虎杖!』
「ぐ……うぅ……」
背中で、詩音が呼びかけてくる。
やめろとか、もう逃げろとか。
だが、痛みなんて生温さを超越した激痛で、答えるどころか、考えることもできなかった。
目尻に溜まる涙が、光が放つ熱気で蒸発する。
「う、うううぅぅ――ッ‼」
痛い痛い痛い。
辛い辛い辛い。
なんで俺が!
――「人を助けろ」
祖父の言葉が脳裏に過る。
けれど、その言葉をかき消すように、弱い自分が叫んでいた。
あのとき、自分が指など拾わなければ。
あのとき、自分が指など喰わなければ。
あのとき! あのとき‼︎
やめろ! 考えるな‼
その間にも、指先は呪霊の力でボロボロに弾けて失われていく。
――「人を助けろ」
祖父の言葉が霞んでいく。
嫌だ! もう嫌だ‼
逃げたい! 逃げたい‼
死にたくない‼
ここで死んで! 死んだとして‼
それは『正しい死』なのか⁉
考えるな‼
「あぁああぁあぁぁ――ッ!」
押し返すように力を込める。
全身の血が沸騰しそうなほど身体中が熱くなり、頭の芯が痺れてくる。
そして――……。
――あぁ……俺はこんなに弱かったのか。