第9章 グラン・ギニョールの演目【呪胎戴天】
『だろうな。だが。俺にばかり構っていると、それこそ仲間が死ぬぞ』
正面を見ると、呪霊が大きく仰け反って頬を膨らませる。そして、放った。
ボンッと壁が大きく抉れる。
「なんだよ、これ……? 呪術か?」
『呪術じゃない。呪力を飛ばしただけよ』
虎杖たちの反応を見て愉しんでいるのか。
それとも、戦うことに興奮を覚えているのか。
呪霊はケタケタと笑っているようだった。
「詩音。オマエ、走れるか?」
『できるなら、とっくにやってるわ。でも、足が動かない』
足が動かない。捻るか、最悪 骨折しているのかもしれない。
背負って逃げることも考えたが、無理だ。
道順なんて分からないし、それ以前に、誰かがこの呪霊を祓わなければ。
虎杖は走り、右手の拳を握りしめ、デタラメに呪霊を殴りつけた。しかし、拳は簡単に受け止められ、弾かれる。
いくら殴っても効かない。
そうか。呪霊は呪術でなければ祓えないのだ。しかし、呪力の使い方など知らない。
とにかく、時間を稼がなければ――……。
瞬間――。
呪霊が大きく手を広げ、光のドームを放ってきた。虎杖はドームに弾かれ天井近くまで飛ばされる。
『虎杖!』
「あっ……が……っ」
詩音の呼びかけに応える余裕などなかった。
地面に倒れ伏した虎杖へ、呪霊は畳みかけるように、両手に込めた呪力を放ってきた。呪力はみごとに命中し、壁にクレーターを作り、詩音の隣へ倒れ込む。
強烈な痛みに、意識が遠のきそうになるのをギリギリで繋ぎ止めた。止まりそうになる思考を無理やり動かす。
視線の先で、呪霊が大きく手を広げて構えた。また、あの光のドームで攻撃してくる気だ。