第9章 グラン・ギニョールの演目【呪胎戴天】
「へぇ……じゃあ、戻ってきて正解だったわけだ」
冷や汗を流しながら、虎杖は呪霊を見据えた。
『どうするつもり? あなたに特級呪霊を倒すだけの力があるとは思えない』
「伏黒たちがここを出たら、合図をもらうことになってる。そしたら、俺は宿儺に代わる」
『は、ぁ……? 宿儺に代わるって……正気なの?』
どうにか自力で身体を起こした詩音を置き、虎杖は立ち上がる。
「――ここまで来たら、もう逃げらんねぇ。俺が死んだらオマエも死ぬんだろ。それが嫌なら協力しろよ、宿儺」
『断る』
突如 左頬に出てきた口が、即答で協力を拒否してきた。宿儺だ。
『オマエの中の俺が終わろうと、切り分けた魂は十八もある――とはいえ、腹立たしいことに、この肉体(からだ)の支配者は俺ではない。代わりたいのなら、代わるがいい。だが――』
そのときは、呪霊より先にそこにいる女を殺す。
ニヤリと口角を上げながら宿儺は言った。
『次に黒い髪の小僧。その次は茶髪の女だ。二人とも活きがいい。中々 楽しめそうだ』
『ふざけないで! 伏黒 恵も釘崎 野薔薇も好きにすればいい。けど、詞織を殺すなら、その前にあたしがお前を殺すわ‼』
「――んなこと、俺がさせねぇよ」
身体を引きずるようにして必死に見上げてくる詩音に、虎杖は低く呻くように返す。