第9章 グラン・ギニョールの演目【呪胎戴天】
虎杖は伏黒と別れてすぐに来た道を引き返した。しかし、そこに先ほどの場所はなく、道も変わっている。
何度も彷徨い歩いた果て、虎杖はようやく、先ほどの場所に戻って来たのだった。
「――詞織‼」
『……ぁ……』
掠れた声が耳に届く。首を巡らせると、瓦礫の中で黒髪の少女が浅い呼吸を繰り返していた。
『虎杖……悠、仁……?』
絞り出すように紡がれた名前は、いつもとは違う呼び方。
よく見れば――……。
「……目、紅い……詞織……じゃない。詩音、だったか……?」
詞織――否、詩音は沈黙を以って肯定を示すと、こちらを睨みつけてくる。
『……どうして、戻って来たの……? 詞織の覚悟を、無駄に……するつもりなら……あの呪霊より先に、あなたを殺す……』
射殺すような紅い瞳に怯むことなく、虎杖は詩音に駆け寄り、小さな身体を抱き起こした。
「殺す力なんてないくせに。それよりオマエ、特級呪霊なんじゃなかった? アイツ、オマエより強かったのか?」
『オマエ、オマエって、気安く連呼しないで。あんなヤツ、あたしにかかればザコよ。でも……詞織があたしの縛りを解くより先に気を失って……』
【縛り】とは何だ? いや、今 考えている場合ではないか。
詳しくは分からないが、どうやら今の詩音に特級呪霊を祓うことはできないらしい。