第2章 「前途多難な共同生活」
…さん、この家には畳の部屋は…無いのだろうか?
お世話になる身ですまんが…と少し小さくなる姿に笑っちゃいけないんだろうけど、吹いてしまった。
部屋に入るなり、「下駄箱」「衣紋掛け」「一食一飯の恩義」と私の世代でもおじいちゃんやおばあちゃんしか言わないような言葉が次々と出て来て、そこまでは耐えられたんだけどいよいよもって吹き出してしまった。
「ごめんね。うちのマンションは畳の部屋はないんだよね」
今度百均に行ったら畳のシートないか見て来るね、と付け加えると、突然パァンと大きな音がした。
自分の事を殴った……。
この性格?行動?はよく知ってるけど、本当に目の前でやられると驚いてしまう。
「恩義を忘れ!!!!私欲を貪り!!!!人と呼べるかァ!!!!キエエ!!!」
突然の大声に思わず背伸びをして彼の口元を私の手で覆った。
「モゴ……、…」
「ここ、マンションだからさ……大きな声は控えてね。苦情来ちゃう」
落ち着いたのを確認すると真田から離れ、苦笑いしながらキッチンへと向かう。
更に小さくなった真田が正座で居心地悪そうに座るのが見えた。
「す、すまん……。世話になる身で我儘を言ってしまったと思ってな……。今後は気をつけよう」
笑いながらお湯を沸かし、実家から送られて来た最高級の玉露の缶に手をかけ
「気にしないで。真田幸村の格言だよね?」
と微笑みかけた。
私が言われた言葉を理解したことが嬉しかったのか、小さくなっていた身体は元の大きさに戻り目を輝かせて
「さんも歴史が好きなのだな!」
と、興奮気味に話し出す。
真田の話しに相槌を打ち、目の前のテーブルに湯呑みとマグカップを置きながら思案する。
本当はベッドかソファーで寝て貰おうと思ったけど、後で布団を買いに行かなきゃいけないかな…?
床で寝るとか言い出さないようにしなきゃ。
夢にまで見た推しとの共同生活だけど、これは前途多難な共同生活になりそうだなぁ。
つづく