第23章 藤の華に揺れる〜❶〜
『ただいま戻りました!』
トタトタトタ、と奥から足音が近づいてくる。
『兄上っ!お帰りなさい!お疲れ様です!』
『千、変わりないか?嬉しい事でもあったのか?』
『はい!兄上実は天使の様な方に会ったのです!綺麗な人でした!』
キラキラとした目を向けられると、可愛くて仕方がない。頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
『そうか!さぞ美しかったのだろうな!!父上に挨拶をしてくる!後で聞かせてくれ!』
『はい!兄上、昼餉はさつまいもご飯にしますね!!』
『それは楽しみだ!宜しく頼む!』
父の居る奥の方へ歩いていく。
一声掛けて中に入る。いつもと同じ光景が広がる。
敷きっぱなしの布団に寝転がる父、酒の空き瓶が転がる部屋、
『何の用だ、』
疑問系でも何でもない突き放す言葉。
『昨日、姫月と言う名の者が住む藤の家紋の屋敷へ行って参りました。』
ピクっと身体が動いたのを見逃さなかった。
『老夫婦と孫娘が住んでいて、話によると父上に助けて頂いたのだと言う事が分かりました。』
『っ、恨み言でも言われたか?』
ボソっと返ってきた父の言葉
『命を救ってくださった父上に会って御礼がしたいとの事でした。とても聡明な娘さんでした。』
『そうか、それだけならもう行け。』
『…はい、失礼します』
背後で襖の閉まる音、遠ざかる足音を聞きながら当時の事を思い出す。
杏寿郎と同じ年頃の子供を抱きしめながら、力の無い者が鬼に襲われて居た。駆け付けた時には両親に挟まれて浅い息をしている女の子しか生存は確認出来なかった。
両親はその子を抱きしめる事で鬼から守っていた事が身体を見れば分かった。隠により両親は弔われ女の子は蝶屋敷に運ばれて行った。
彼女の祖父母と名のる者が来てようやく女の子は泣き始めた。
胸が締め付けられた。我が子と同じ位の子供の両親を助けられなかった。
祖父母も責めはしなかった。孫娘だけでも生きていてくれた事が奇跡だと。
その後その子がどうしているかは知らなかった。
妻の事があり、今自分はこんなザマで、彼女が立派に成長したことを聞いて恥ずかしかった。
こんな姿は見せられないと嘲笑った。