第23章 藤の華に揺れる〜❶〜
お湯に浸かりながらそっと背中に触れる
杏寿郎に触れられた事を思い出す
『大きな手だったな、…もっと触れられたかったなんて、はしたないよね、』
静かさの中水音に掻き消された
『…知り合って間もない女性の体に触れてしまうなど、鍛錬が足りないな、』
ぎゅっと掌を握りしめる、その表情は穏やかだった。
翌朝、朝餉を済ませた後すぐに家に帰る事にした。
『忙しなくて、済まなかった。憂、また来る。元気でいるんだぞ。』
『はい、ご家族によろしくお伝えください。』
寂しいと思うのも、一時の感情。時が過ぎれば、また日常に戻る。
風が吹き抜け藤の花が揺れ、花弁が舞う。
『綺麗だな。憂にとても良く似合う色だ。また、会いに来てもいいか?』
『はい、煉獄様、御武運をお祈りしております。』
にっこりと笑いそっとハンカチを渡す。藤の花の刺繍が入っていた。
たった1日それだけだったが惹かれ合うには充分だった。
風の如く消え去って行った空を見上げて屋敷の中に戻った。
それから数日はいつもと変わらない日常だった。