第1章 夢の中の少女
「無難にダージリンやアールグレイがいい?あ、フルーツが好きならボレロの方がいいかな?」
「え、えっと……任せるよ……」
「おっけ!任せて!」
明るく返事をすると、茶葉と沸騰したお湯をポットへ入れていく。中をスプーンでひとかきして、茶こしでこしながらお茶の濃さが均一になるようカップに注ぎ分ける。
その手際の良さを見ると飲み慣れていることがよくわかった。
「ティータイムのお供は、フルーツタルトとスコーンどっちがいい?」
「えっと……じゃあフルーツタルトで」
「うん、わかった。いま用意するね」
冷蔵庫から二人分のフルーツタルトを出して、アリスもリドルの向かい側の席へ座る。
出されたお茶の中身を見てみると、濃い茶色の中に薄い黄色が溶けているのが見えた。何かを入れていたようだが、原型を留めておらず、それが一体なんだったのかわからない。
「何を入れたんだ?」
「ん?バターだよ」
「えっ、バター!?紅茶にそんなの入れるのかい!?」
「ティーバタードラムって名前なの。紅茶のシャンパンと称される、ダージリンのみのブレンドよ。古くから飲まれてるカクテルにホット・バタード・ラムがあって、それを紅茶風にしたものなんだよ。紅茶の替わりに濃いめのミルクティーを使えば、ホット・バタード・ラム・カウ・ティーになるよ」
「………」
何を言っているのか、まるで理解が及ばない。
とにかく美味いかまずいかは飲んでみなくてはわからない。カップに鼻を近づけるとフルーティーな香りが漂ってくる。匂いは悪くない。
ひとくち飲んでみると、意外にもすっきりとしたのど越しで飲みやすい。
始めは薄甘いような味覚が舌の上に広がり、次に芳醇なバターの香りが口いっぱいに広がる。なんとも言えない高級感と幸福感がある。甘すぎることはなく、少し苦味もあり、絶妙な味のバランス。