第38章 利休の匣〜2026信長誕生祭〜
障子越しに柔らかな朝の光が射し込む。
眩しさに目蓋を擽られ、ゆっくりと目を開ける。
「……ん」
布団の中で身を捩り、寝起きのぼんやりとした頭で記憶を辿る。
(昨夜は信長様のお誕生日のお祝いで…利休様からの贈り物を…)
利休から贈られた異国の艶めかしい衣を思い返し、昨夜の熱が残っていた身体がかぁっと熱くなる。
はっ、と我が身を顧みれば、昨夜身に着けていたはずの異国の衣がない。代わりに薄桃色のいつもの襦袢が綺麗に着付けられていた。
乱れひとつない襟元、帯も程よく結ばれていて、まるで寝る前かのように整っている。
不思議に思っていると、背後から低い声が降ってきた。
「起きたのか」
振り返れば、信長様が腕を枕にしてゆったりと横になりながらこちらを見ていた。
「信長様…起きていらしたのですか?」
「今し方な。だが、まだ早い。もう少し休んでおればよい」
そう言うと、信長は朱里を抱き寄せて、腕の中へ閉じ込める。
朱里は信長の胸元へ頬を寄せながら、襦袢の襟元にそっと触れる。
「信長様が…着替えさせてくださったのですか?」
「ああ」
遠慮がちに尋ねると、あまりにもあっさりと返事が返って来て拍子抜けする。
「あの衣では風邪を引きそうだったからな」
にやりと意地悪な笑みを浮かべる信長を見て、朱里は昨夜の情事を思い出して頬を朱に染める。
肌が透けるほどの薄絹の衣を身に着けたまま激しく抱かれ、衣がぐっしょり濡れて肌に張り付く感触に身を震わせた。
(あの異国の衣はどうなったのかしら。すごく濡れてしまって…)
密かに視線を彷徨わせていると、信長はそんな朱里の考えを見透かしたように口元を緩めた。
「案ずるな。洗わせてある」
「え……」
「せっかくの祝いの品だ。一度きりでは惜しい」
「…えっと…あの…?」
「また着てくれるのだろう?」
「そ、それは、その…え、でも…洗わせてって…う、うそ…」
(あの恥ずかしいものを!?うぅ…堪えられないっ)
朱里は余りの恥ずかしさに、真っ赤になった顔を隠すように信長の胸に顔を埋めた。
あの薄く艶めかしい異国の衣は肌に張り付くほど散々に濡れてしまっていた。着たままで激しく交わって、最後はどんな状態だったのかも覚えていない。
洗うためとはいえ、それが女中たちの目に触れたのだと思うと居た堪れなかった。
