第38章 利休の匣〜2026信長誕生祭〜
「の、信長様っ」
突然抱き上げられた朱里は、慌てて信長の首にしがみつく。
「今宵はまだ長い。愛らしい貴様を前にして、ゆっくり休んでなどおられん」
朱里は熱を持った頬を隠すように、信長の胸元へ顔を埋める。
信長は腕の中の朱里を見下ろし、不敵に口角を上げた。
宴の喧騒から離れた天主は静かで、障子の向こうには淡い月明かりが滲んでいる。
信長の腕に抱かれたまま寝所へと運ばれた朱里は、寝台の上に見覚えのある大きな箱を見て目を瞬かせる。
(あれ…?あの箱って…)
漆黒の箱は異国風の細やかな装飾が施され、蓋が閉じられて金の紐が丁寧に結ばれている。
信長は箱の横に朱里を下ろすと、自身は箱を挟んで向かいに腰を下ろした。
「信長様、この箱は…?」
「利休から贈られた祝いの品だ。今宵の褒美として貴様にやろう」
「えっ…そんな…信長様へのお祝いを私がいただくわけには…」
「遠慮はいらん。寧ろこれは貴様のために贈られたようなものだ」
「え…?」
(私のためってどういう意味だろう。この箱って、この前秀吉さんと一緒に見た箱だよね。利休様から信長様への贈り物だし、高価な茶道具とかだったら私には使いこなせないけど…)
信長の意図するところが分からず、箱を前に戸惑っていると、信長は箱にかけられていた金の紐をさっと解いてしまった。
「開けてみろ」
「……信長様は中身をご存知なのですか?」
何となく警戒してしまい、恐る恐る聞いてみる。
「まぁ…そうだな」
信長は意味深に目を細める。僅かに視線が逸れたように見えたのは気のせいだっただろうか。
信長の意味ありげな態度にますます胸騒ぎを覚えながらも、朱里はそっと箱の蓋へ手を掛けた。緊張に震える手で静かに蓋を持ち上げると……
「……っ!」
思わず息を呑む。
箱の中に収められていたのは、見たこともないほど艶やかな異国の衣。
薄く透ける深紅の布地に、金糸の刺繍。
胸元を大胆に飾る細い紐と、腰をなぞるような柔らかな布。
美しいが、肌を隠すだけの布面積がどう見ても足りない。
「の、信長様……っ、こ、これは……」
朱里は一気に頬を赤くして焦って蓋を閉じようとするが、信長の手が先に蓋を押さえた。