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花火 ー呪術廻戦ー

第15章 差異


意味もなく、また右手の中指でサングラスに触れる。
夢には珍しく、過去に実際にあったことだ。
あれは、高専時代、まだ2年生に上がったばかりの日だったか。桜が満開の並木路を、一年上の先輩達と、一年下の後輩と歩いていた。

(…ああ、でも、夢に出てきたのはあの2人だけでしたね)

よりによって、今はもういない2人が夢に出てくるというのは、どういった自分の心境が反映されたのか。

本当は、あの後、笑うなまえの首の後ろの襟に、灰原の真似をして五条と夏油が桜の花びらを入れて。それを家入が携帯で撮って。怒ったなまえが3人を追い掛けたが、伊地知を盾にした3人になまえが何とも言えない顔をして。


そんな、本当に、何でもないような日常。



忘れていたな、と。切り替えるように軽く首を振り、忙しなく人が動き回る部屋をすり抜けるようにして歩き、己のディスクへと座る。
報告書類を作るために、パソコンの電源を入れたところで軽く一息ついた。

もう後数分で定時になる。
これから作成する書類のことを考えれば、残業は確定だろう。

こんなところは、一般企業も呪術師も変わらない。


切り替わったパソコンの画面に、パスワードを入力しようとしたところで、コトリと温かい湯気の出るコーヒーカップが右手の近くに置かれた。

「お疲れ様です。コーヒーどうぞ」

「どうも。ありがとうございます」

ほとんど反射的に答えるが、パスワードを入力している途中の画面からは視線を外せない。
ただ、コーヒーを運んでくれたその声が、何となく気になる気がして。


ふふっ、と。


空気を揺らした、柔らかく漏れた笑い声に、今度こそ、手が止まった。その笑い方に、既視感を感じたのだ。

思わず振り返った七海の目は、大きく見開かれたが、側からはサングラスで分からない。


「あ、ごめんなさい。笑っちゃって」

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