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花火 ー呪術廻戦ー

第15章 差異


硝子は、何でも勝手に使っていいといったが、何でもとは、何だろうか。
それは、一度考えると、なまえの脳を汚染するように広がっていく。
学生の硝子とは、よくこういうことはあった。お互いの部屋に行き来し、互いのものを好き勝手に使い合っていた。冷蔵庫だって、お風呂だって、着替えだって。

だって、彼女とは勝手知ったる親友だから。


なのに今、なまえは慣れない場所へ来たように動けなくなっていた。
友人まではいかない…知り合いの家に来て、身を硬くするのと同じ様に。
どうしてこんなに気を遣って、


『なまえさ、硝子に緊張してんの?』


悟の声が、蘇る。


「…する、わけない」


言い聞かせる様にして、口にする。


「…私、変だ」


そっと、その場にしゃがみ込む様にして座る。
どうして、硝子に「親友」と言われて、ドキリとしたんだろう。
どうして、こんなに、胸がざわつくんだろう。

テーブルに乗ったままの炭酸が注がれたコップ。そのコップの周りについた水滴が、重力に負けて、スゥと遙か底へと流れ落ちる。


「会いたい…硝子…」


無意識に、口にしたそれは。高専の彼女の姿を思い浮かべていたことに、なまえは気付いた。
気付いてしまえば、浮かぶのは、11年後の仲間ではなく。高専で共に過ごした、仲間達の姿。

硝子、夏油、伊地知、七海、……悟。


「っ…会いたい……」


おかしい。彼等はみんな、『ここにいる』。
『ここにいる』、のに。

手が震える。何かが込み上がる。
全てを振り払うようにして、テーブルに顔を伏せた。開きかけた箱を、上から無理やり押さえつけて閉めるみたいに。

これ以上は、ダメだと思った。


目を閉じれば、ゆらゆらと揺らぎだす思考。
いつかの私と、硝子の声がした。




『私だけ歳とって、大人になっちゃっても友達でいてくれる?』

『当たり前でしょ』

『硝子好きっ!』




私、私はー………




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