第2章 始まりの日
日は西へ傾き、街は段々と橙色に染められていて。
そんな何処か淋しさが滲む街中を、制服に身を包み、ひとりとぼとぼと歩く少女がいた。
少女、悠華は小さな溜め息をひとつ零すと、イヤフォンから流れてくる音楽を、ポケットの中で一時停止させた。
毎日歩き慣れた帰り道。
すれ違う人々の笑い声が、イヤフォン越しにくぐもって聞こえる。
それはまるで自分と周りの間に、見えない壁でもあるかのような感覚で。
何も変わらない世界。
同じ日々がただだらりと続き、私を置き去りにしたまま、また代わり映えのない朝を連れてくる。
そんな世界が嫌いで。抜け出したくて。
こんな世界で、私は一体何をしているのだろうか。
私は一体、何がしたいんだろうか――…
「……一護たちに、会いたいな」
ぽそり、と誰にも聞こえないような声でそう漏らせば、それを掻き消すようにまたひとつ溜め息をついた。
その思いは、今思えば最初からだった。
何度もBLEACHの世界に行きたいと望み続けては、そうはいかない現実とのギャップに虚しくなっていく。
悠華には、紙の中の彼らを、ただの登場人物だとはどうも思えなくて。
文字通り次元の違う彼らを、ただの空想の人物だとは思えなくて。
それと同時に彼らを、また彼らのいる世界を、どこか懐かしく、そして愛しく感じる自分がいて。
他人からすれば、馬鹿馬鹿しくてふざけた絵空事の感情なのだろうが、悠華にとっては至極真面目な話である。
ひとつ思うのは、大事な人を守りたい。
傷付きながら、それでも人々を守り続けるあの人たちを守りたい。
そう願い、何度も何度も彼らのいる世界に思いを馳せた。
だがそんな悠華の思いも虚しく、BLEACHの世界へ行ける予兆なんてものも現れず。
半ば諦め、いや九割九分諦め気味で、退屈な毎日を過ごしていた。
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