第6章 回想2
つい笑う。
こいつといると、俺が俺でなくなる。
…いや、こっちの俺が、ホント?
こいつの言う通り、
メシは命、とはよく言ったもんで、
さっきまでのトゲトゲしい感情は見事払拭され、
生きる力というか、
色んなものが漲るのを感じていた。
「ごちそうさまでした。うまかった!」
俺が笑うと、そいつも嬉しそうだ。
「これ、お前が作ったのか?」
こんなに力が湧いたの、初めてだ。
「違うよ。向こうでお弁当屋さんやってるおじちゃんが作ってくれてるの。私もいつか作れるようにね、勉強中なんだ」
なぜか、ひどく嬉しそうに話す。
「…ヘェ…。そうなのか…」
あの、今食ったヤツを、
近い将来こいつも作れるようになるって事か…
考え込んだ俺を見て、小首を傾げるそいつに、
「いや、何でもねぇ。さ、今のメシのお礼に、
何かしてやれる事はねぇか?」
こんな気持ちにさせてもらったんだ。
何か、してやりてぇ。
「え?」
そいつは、急な事に戸惑っているようだった。
「ホラ、何かねぇの?」
…まぁ、そんな事言われて、
すぐに出ちゃ来ねぇか。
「…何かな…」
「まぁ、俺に出来る事しか出来ねぇけど…」
金よこせと言われても無理なハナシだ。
しばらくすると
何やら思いついたようで…。
「木のぼりできる?」
嬉々として訊いてくる。
「木のぼり?」
すぐそこの木を指差して、
「この木にのぼってみたいの。景色見たくて。
いつものぼろうとするんだけど、
うまくできなくて…」
木のぼり、かぁ。
俺は木のそばに寄り、見上げる。
とっかかりもねぇし、枝も高い位置。
でもまぁ、
「これくらいなら大丈夫だ」
こいつを抱えたとしてもだ。
「ホント⁉︎嬉しいな、木のぼり教え…て…」
なんか言ってるその娘をひょいと抱き上げると
言葉尻を濁らせ、呆然としている。
そんな事より…
「軽っ!お前、メシちゃんと食ってんの?」
背丈もちっせぇが、コイツ大丈夫か?
異常だぞ。
「え?…え、何してるの?」
予想外の事に
俺の話なんて届いてねぇ。
「このくらいの高さならいける」
「は?…あの、下ろして?…木のぼり…」
あぁ、木のぼりね、
「のぼるより、跳ぶ」
そう伝えると俺は地面を蹴った。