第5章 消息盈虚
「…おじちゃん…おばちゃん…ありがと」
私はそれだけ伝えるとわんわん泣いてしまった。
だって…だってさ、今日だっておばちゃんは
「大変だから手伝いに来てぇ」なんて、
泣きつくようにして来たじゃない。
ほんとは、私のためだったのね。
自分の鈍感さには、ほとほと呆れるよ。
ほんの少し前、春の始まりの頃までは、
当たり前の生活だった。
それなのに、彼に出会って、
いっぺんに変わってしまった。
…はじめは、ただの変な人だと思っていた。
だけど、
優しくて、心も広くて、
彼の隣は、あんまり居心地良くて。
一緒にいたのなんか、
ほんの1、2か月だけの間なのに…。
こんなに惹かれたのはどうしてだろう。
でも、
こんなんじゃダメだよね。
そう、思った時、
「それでいいよ」
という、おばちゃんの声が耳に届く。
私の心の内を、見透かすような…。
私ははっと、顔を上げた。
「つらい気持ちも、睦ちゃんの一部なんだから受け入れなさい。ここでならいくらでも泣いていい。泣くななんて言わないから。大丈夫だから思い切り泣きなさいね」
あぁ、ここは私の、家だった。
そうだった。
それにしたって、
どうしてわかってしまうんだろう。
涙を溢し、おばちゃんを見つめると、
ふわりと微笑んでくれた。
「初めての恋でしょう?
いろいろ不安だらけよね。
それなのに、会えない日が長く続いたんじゃ、
どうしようもないわ。
何かでごまかしてなきゃ、やってられないさ」
おばちゃんの優しい手に誘われるように、
つらかった心を吐き出して
あんまり安心した私は
そのまま、子どものように眠ってしまっていた。
目を覚ましたのは、明け方。
いつのまにか、毛布が掛けられていた。
寝転んだまま、ぱっと目を上げると
食卓に、おじちゃん。
…
「おはよ…」
「お、起きたか」
「うん…ご、ごめんね」
昨日の事を謝ると、
「ん?何がだ?」
知らないような顔をする。
「んな事より身体は痛くないか?
悪かったな、そんな所でよ」
「大丈夫だよ!謝るのはこっち!」
何だか色々思い出して恥ずかしくなってきた。
あんな子どもみたいな…